らんままの気まぐれ独り言

LUNASEA、長澤知之が大好きな女の独り言です。時々太宰治が登場。

「恋の蛍 山崎富栄と太宰治」を読んで

著者 松本 侑子さんの「恋の蛍 山崎富栄と太宰治」を読みました。
太宰治をよく知る上でとても有益な書籍です。

 

太宰治の愛人で、共に入水自殺をした女性。山崎富栄。
彼女の人生を書いた本であるが、創作も含まれているので、
完全なるノンフィクションではありません。


ただ富栄は太宰と出会ってから死ぬまで日記を残しているので、
それに基づく創作と、当時のことを知る人達への取材により構成されている。
取材に関しては、日本中、フィリピンまでも訪れていた著者の熱意に感服します。

 

読み終わった直後の感想としては「疲れた」だった。
特に後半は死の前後も詳しく書かれているので、陰鬱な気持ちを引きずる。
そして溜息しか出ない。

 

二人は出会わなければ良かった。
そう思わずにはいられない。

 

富栄は、お金も人生も全てをかけて太宰のために尽くした。
それは私には、愛というか執着に感じた。

 

"死ぬ気で恋愛してみないか?" という口説き文句を言われ、
富栄は一気にのめり込むことになる。

 

「自分だけが彼の真の理解者だ」
「彼を支えることが出来るのは自分しかいない」
「自分がいないと彼はダメになってしまう」

 

ダメな男を好きになる典型的な思考。
でも富栄にとっては命をかけて愛し、真実の愛だと信じていただろう。


だが太宰にとってはどうだったのか?

 

最初は軽い気持ちだったと思う。
自分好みの綺麗な女性が、キラキラした憧れの目で見つめ、先生と呼ぶ。

 

初めは太宰からグイグイ迫るが、次第に富栄の独占欲は強くなってくる。
ちょっと太宰も重くなってくるんだが、いやいや自業自得でございますよ。


晩年、結核で体調を崩し度々喀血していた太宰は、富栄の部屋に入り浸る。
献身的に介護をしてくれて、執筆の助手や来客の対応など、
謂わば秘書のような役割だった富栄に精神的にも身体的にも寄りかかれる
存在だったんだと思う。

 

盲目に、一途に自分を愛する女。
甲斐甲斐しく自分の世話をする女。
文句も言わず、口答えもせず、何でも言う通りになる女。
そんな女性に太宰が依存していくのは当然だろう。


結核が進行し、喀血して痩せていく太宰だったが、
その中で命を削りながら「人間失格」を執筆出来たのは、
傍で富栄が支えていたからで、この点についてだけは富栄に感謝したい。
この点についてだけは。


当時売れっ子作家だった太宰は、今で言うアンチに叩かれまくっていた。
人気があるということは、その分アンチも多いだろう。
それに私生活については、叩けばいくらでも埃が出る。

 

作家界隈でもよく思わない人達が多く、次第に太宰は文壇でも孤立していく。
また自分の命もそう長くないと実感していた。

 

何もかもに疲れ、逝こうと決める。
富栄は「一緒に連れて行ってください」と願い入れる。


これは愛なのか?
美談なのか?


男は、妻以外の女性とキッパリ分かれることができず、

だらしなくズルズルと関係を持ち、病魔に命を奪われる恐怖もあり、

自分の全てに嫌気がさしている。

 

そんなどうしようもない男の才能に惚れ込み、身も心も捧げ破滅していった女。


どんなにドラマチックに創作しても、私は二人を美しいと思えなかった。

 

二人が死を選んだ本当の理由は二人にしかわからないので、
何のかのと詮索したって答えは出ないんですが、虚しさだけが残る。


妻である、津島美知子さんの著書「回想の太宰治」では、
太宰の女性関係について一切触れられていなかったが、
この「恋の蛍」では、当時の美知子さんの様子も書かれていた。


太宰の亡骸が川から引き揚げられた時も冷静に受け止めていた。

 

でも、太宰と富栄を同じ葬儀場で火葬しようという意見があったが許さなかった。
墓も同じ寺に埋葬するなど言語道断。
"太宰の体は骨にしてから家に上げてください" と言ったこと、印象に残った。

 

遺体が発見された時、太宰と富栄の体は紐で固く結び合い、
腕をお互いの体に絡ませしっかりと抱き合っていた。
そんな夫の体を家に上げるなど嫌だったのだろう。
「回想の太宰治」では汲み取れなかった妻のプライドと嫉妬が見えた。

 

富栄の日記や太宰の遺書などから無理心中ではないことがわかるが、
当時「人気作家が愛人に殺され無理心中させられた」という解釈が

世の中に広まってゆく。


人気作家と愛人。
どちらが世の中的に弱い立場か一目瞭然だった。

太宰の遺体はすぐに霊柩車が手配され引き取られていったが、
富栄の遺体は半日川辺にむしろをかけられて放置されていたことからもわかる。

 

富栄の父親が、娘の亡骸を引き取りに上京するが、

津島家からの冷遇と世間からの非難の声に生涯晒されて、肩身の狭い人生を送る。

こちらの親からしたら娘の命を奪われたと悔しいだろうに…。

 

二人は、死んだ後に残された家族がどんな人生になってしまうのか
想像もしていなかったんだろうな。
二人はそれで良かったかもしれないが甚だ迷惑だし、気の毒だ。


富栄に同情する気持ちもある。
心の底から愛する人に出会い、一緒に死ぬことで本当の意味で

添い遂げることになると本気で信じていたと思う。


ある意味純粋で、真っすぐな人だったんだろう。
純粋さ故に太宰一色に染まってしまったのだ。


結論として、私は富栄に同情はするが理解は出来ない。
二人の弱き人間が、破滅へ向かう道のりを見届けた後、疲労感が残る。

 

創作も加わっているので、富栄の心情やセリフなどが
脚色されている箇所もあるので、少々興覚めしてしまう所もあった。

 

太宰を知る上で避けては通れない書籍だけに、情報収集という意味では読んでよかったけど、虚しく陰鬱な気持ちになり、何度も読みたいと思えませんでした。

 

書籍としては素晴らしいですよ。
決して内容をけなしているわけではありません。
取材量を鑑みても、ものすごいエネルギーがいったと思います。


太宰についてはどうだろう。
「こんなクズ野郎の本なんか読みたくもない!」という声も聞きます。
ですね、クズです。

 

太宰治の作品は、好きか嫌いか。0か100か。のようにハッキリと分かれると思う。
私は何で好きなのかなと考えるに、やはり才能だと思います。
小説においての才能は素晴らしい。人としてはクズなのでそこはフォロー出来ません。


今回、この「恋の蛍」を読んで、太宰の最期を知ることが出来た。
また違った気持ちで彼の作品を読んでみようと思う。