らんままの気まぐれ独り言

LUNASEA、長澤知之が大好きな女の独り言です。時々太宰治が登場。

太宰治 親友交歓

太宰治の作品から。

これは、要約すると、太宰が戦後に青森の実家へ帰省している時に起きた話で、
「親友」を名乗る一人の男が訪問してきた際の事件として書かれています。

今で言う、ブログみたいな印象を受けます。
その日の出来事を、太宰の心境を解説しながら書き進めているのが読んでて面白い。



太宰は東京で罹災し、家族と共にしばらく青森で過ごします。
そこへ、自ら親友と名乗る一人の男がやって来る。

この親友とやらが胡散臭い(笑)
小学生時代の親友らしいが、名前を聞いても太宰は幽かに記憶にあるぐらい。
「よく喧嘩をして、俺の手の甲に傷があるが、お前につけられたんだ。
お前の左の向こう脛には、俺がつけた傷が残ってるだろう。」と男は笑うが、
太宰の左脛はおろか、右脛にもそんな傷は無い。

突然、クラス会をしようと思うから、金銭の面で援助してほしいという風な
相談を太宰に持ちかけます。

東京で作家として名前も出てきている太宰の事を知り、会いに来たんだろうな。
にしても、この男図々しいんですよ。

太宰の性格上、どんな人に対しても無下にすることが出来ず、愛想笑いをし、
その場を丸くおさめるために耐えてしまう。
自身でも、その日の自分を「彼に対してたしかに軽薄な社交家であった」と表現している。


「酒はないのか」突然の男の発言に、太宰はぎょっとするものの、相手をしてしまう。
そしてガバガバとウィスキーを飲み、嫁を連れてきてお酌をさせろと言ってきたり、
配給でもらった毛布をよこせと言ってきたり、その他もろもろ失礼極まりない態度で居座り続ける。

読んでて、こいつさっさと帰ってくれ!と言いたくなるほど、嫌悪感を抱きました(笑)

酔っ払った親友とやらが、歌を歌うぞ!と突然宣言をした時、太宰はホッとしたのである。
歌に依って、この当面の気まずさが解消されるだろうという安堵感と、彼と会ってもう5、6時間が
経とうとしているが、一瞬たりとも彼を愛すべき親友と思えず、このままでは永遠に恐怖と嫌悪の情だけの
記憶になることを思うと、何か一つでも楽しい思い出を残せたら…別れ際に、悲しい声で津軽の民謡か何か
歌って私を涙ぐませてくれという願望を込めて、彼の歌を待っていた。
もはや太宰は、軽薄な社交家ではなく、その時は心の底から彼の歌に期待したのである。

しかし、その期待は無残にも裏切られた。彼が歌った歌詞が書いてある。

「山川草木うたたあ荒涼
  十里血なまあぐさあし新戦場」

何の歌だ!?何故に戦場?血なまぐさしって!
太宰の胸中を思うと、気の毒でしょうがない。

それを歌って満足したのか男は「帰るぞ」と言った。もちろん太宰は止めない。
でもここで終わりじゃないのが、この自称親友男だ。

棚の奥に隠していた新しいウィスキーをよこせと言ってきた!
「知っていやがる…」と太宰はこの男の目ざとさに戦慄までも覚えます。
このウィスキー、秘蔵物で、集めるのに苦労したんだってさ。お金を出せば買えるわけじゃなく、
入手困難な代物だったらしい。それも最後の一本。

ハッキリと断れない弱い気持ちと、こいつには何を言っても無理だという諦めの気持ちで、
太宰はそのウィスキーを渡しちゃうんだな。

親友と言われても、ほぼ記憶にない男。
だとしても冷たくあしらうことが出来ずに、家に上げてしまったことを後悔しただろうな~。

最後に男は有終の美を飾った。
玄関まで見送った太宰の耳元で、激しく囁く。

「威張るな!」





この男、結局のところ、東京で作家になった太宰を妬んでいるんじゃないか。
ずっと地元で農夫をしている男にとって、憧れと妬みが入り混じり、嫌味を言いに来たのかな。

どこまで本当なのか、多少デフォルメしてるかもしれないけど、人間の嫌な部分を
この親友とやらが最大限に表現してくれている。

人間の心理。本性。怖ろしい。

内容は、かなり掻い摘んで書いているので伝わりにくいかもしれませんが、
本当にね~…こんな奴いたら関わりたくないって奴なんですよ(笑)

そして、人に言われたらNOと言えない性格の太宰。
…私も強く出てくるタイプの人間には、怖気づいちゃってNOって言いにくい。
だけど、NO!とちゃんと言い返さないと、こういう目に合うのね(汗)


太宰の日記、ブログを読んでるような感覚の作品です。
そしてきっと、この体験をした彼に同情してしまうでしょう(笑)